- Gedachtnis 記憶 -

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「ああ、助かった」 瀬名が差し出した手の上に、 ビニールのパッケージに入った、 半透明の円筒状のケースを置いた。 「検体だが... 何処の機関で調べるか知らないが、 大丈夫だろうね?」 不安げに藪が呟く。 「判ってる。 絶対に先生の名前は表出さない。 色つけていつもの口座に振り込んでおく」 「助かるよ」 「ああ、それから、 制殺子剤を投与して置いた。 アフターピルだが、 100%妊娠の可能性がないとは言い難い。 このまま彼女に事実を告げなかったとしても、 数ヵ月後には、腹の子供に気づいて、 今日の出来事を知るかもしれない。 それでも、 彼女に、言わないつもりかね?」 「そんな数パーセントの可能性のために、 事実を告げて人を壊す理由があるのか? 知らないで一生過ごすほうがいい事だって、 なかには在るんだよ」 「.....後のことまでの面倒は、見ないからね」 「ああ、」 医者が部屋を出て行き、 また静けさを取り戻した部屋に横たわる女のほうへと 瀬名が近づいていった。 ジャケットを脱ぎ、 シャツをおもむろに脱ぎ始める。 ズボンのベルトに手をかける瀬名に、声を掛けた。 「え?なにをするんですか?」 全ての服を脱ぎ捨てて、 全身がぬめった液体に覆われたままの 彼女の腕を掴み、バスルームへと引き摺っていく。 まるで、遺体の処理でも始めるかのような、 瀬名の行動に、呆然と行く末を見つめた。
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