- Gedachtnis 記憶 -

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「記憶を作り変える?」 「今まで、Owlの顔を皆が覚えてないという理由、わかるか?」 「え?」 「常軌を逸した暴力や恐怖を受けるとな、 その時の記憶を抹殺するために、 人は防御的に、 その前後の記憶も一緒に消し去ろうとするもんなんだとさ。 ひどい時は、 自分という自我さえも消し去ろうとする。 全て無にしようとするのは、自分を守る手段なんだな。 でもコンピューターじゃないから完全には消えない、 だから、 ぼんやりと残った記憶の欠片に 恐怖を感じたり、痛みを覚えたりする。 その記憶の防御の御蔭で、 Owlと言う男の顔もぼやけてしまい、 結果的に特定出来ずにいる 皮肉なもんだ、 自分を傷つけた男を忘れ去るなんてな」 「彼女が目が覚めたとき、 身体中の殴られた痕を目にすれば、 どうなる?」 瀬名が俺へと質問した。 「自分の身に起きたことに気づき、 きっと、Owlの存在も記憶から消そうとする....」 「そう、 それを阻止するために、今から記憶を入れ替えるんだ。 Owlの記憶を留まらせるために」 「でもどうやって、記憶を入れ替えるんです? 傷跡なんて、どうやったって隠せませんよ」 「それは此処を出てから教える」 それっきり瀬名は口を閉ざした。 悲しみにくれる時間も与えられないまま、 シャツのボタンに手をかける。 全ての服を脱ぎ終えた後、 バスルームのタイルに女を寝かせる様子を眺めた。 上から冷たいシャワーが降りかかっているというのに、 指先一つ動かない女。 女の姿を眺めている俺へと瀬名が振り向き、 バスルームの外へと出てきた。 「此処は任せた。 他に証拠があるかどうか、調べる」 「ええええ?任せたって、俺がやるんですか?」
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