Rainy Day #2

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「瀬名だ、若頭を出してくれ」 電話をかけたのは、東新宿にある女のマンション。 玉東組の若頭が可愛がっているキャバのホステスの家だ。 此処を知っているのは、ごく限られた内輪の人間だけだった。 「え?何の話?」 声色を変えることなく女はシラを切ろうとする。 女の態度に煙草に火をつけたくなる衝動に陥り指先を擦り合わせて、苛立つ感情を抑えた。 「居るのは知ってる。急用なんだ、急いでくれ」 暫く無言になったあと、待ち受けの音楽が流れ始める。 ホッと息をつき、 煙草を手に取ったが、目立った行動は避けたかった。 コウトウビルは俺の視界に入っている。 再度ポケットへ煙草を戻した。 「よお、瀬名さん」 たっぷり待たされた後、不機嫌そうな声が受話器越しから漏れた。 「悪いな。お楽しみ中に、」 「良くここが判ったな」 誰もが手に入れられる情報ではないことを知っている俺に対して、褒め称える口調だったが、内心は、部下の誰かが漏らした、もしくは、俺に追尾されていたことに気づかずに、今まで女の家に入り浸っていたことに対しての驚きと猜疑心でいっぱいだろう。 「情報を集めるのが仕事なもんでね。」 「アンタには、全て筒抜けってわけか」 その言葉に応えずに、本題へと入った。 「今から、アンタの縄張りの中でちょっと荒っぽいことを始める。 悪いが暫く目を瞑っていてくれないか?」 「おいおい、一体何するつもりだ?」 「オオカミが入り込んだ。」 通常、酔っ払いの馬鹿ドモを指すが、此処でのオオカミは 此処の住人じゃない人間と言う意味だ。 それを理解したのか、鼻をふんと鳴らす音が聞こえた。 「外の人間が、歌舞伎町で一体何をやらかした?殺しか?」 「俺の仲間を傷つけたんでね、報復はいつもどおりきっちりさせてもらうってことだ」 「俺に頼みに来たって事は、派手にやるつもりか?」 「そうならないように気をつける」 沈黙を与えられ、 対価として相応しいネタを口にした。 ようやく手に入れた情報。やり方次第では、いくらでも金を産む情報だったが、 惜しむ時間は無い。
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