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恋人がいる。
贔屓目じゃなくても可愛くて、おっちょこちょいで、つい手を貸したくなる。
心配性で、おせっかいで、優しい人。
優しくて、騙されやすい人。
「ああ、この子、人に利用されるために産まれてきたんだろうな」て思っちゃうくらいにすぐ騙される。
そんな彼女とのキスは、いつも短くて甘い。
優しく唇をふれあわせて、たまにじゃれつくように食む。
ゆるやかなキスは、なんだか焦れったいけれど、嫌いじゃない。
キスの終わりはいつも彼女が告げる。
「りんちゃん、お腹空いちゃった」
小さく鳴ったお腹の音にはにかみながら、彼女は私の腕から抜け出した。
「じゃ、ファミレスでも行く?」
そう告げたら彼女は嬉しそうに微笑んだ。
「私、急いで準備するね。りんちゃん、先に行かないでね?」
「はいはい。ゆきも速く準備してきてね」
「りん」ていうのは、私の名前。
「ゆき」は彼女の名前。
私も彼女も、性別学上では女性だったりする。
幼なじみだったゆきと、「恋人同士」になったのは大学1年生の時。
ゆきが、
「りんちゃん、私の彼氏になって」
と言ってきたのがきっかけだったりする。
それから数年経て、現在大学4年生。
私たちの関係は、「親友」という名称から「恋人」に変わっただけで。
実質キスをするようになった以外は変わらない。
「りんちゃん、私、オムライスがいいなぁ」
最近、ゆきの笑顔に違和感を覚える私はそれを彼女に言い出せずにいた。
「りんちゃんは?」
「、、、ハンバーグ」
恋人。
唯一の存在。
肉親以外で、一番近い存在。
この距離感は心地よいけど、なんだか焦燥感がある。
そう感じるのは私だけだろうか。
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