Ⅰ 

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 穏便に事を運ぼうとする彼の提案に、クローディオは舌打ちをする。しかし不服そうな態度をとりながらも、却下しない所から一応承諾したようだ。 「おい貴様、俺が勝ったら賭け分を返せ」  だがその気遣いをドミニクは自ら貶した。どうやら彼は負けず嫌いらしい。 「このままでは済まさんぞ」 「嫌だ。一度得た物を差し出すとは愚の骨頂」 「三度目の正直だ。今回、俺が負けたら諦めて貴様の腕を認め、今までの賭け金の倍出してもいい」 「よしやろう」 「やりませんよ?」  賭け好き負けず嫌いの二人を落ち着かせると、アルバートは律儀に、黙々と札を切っていたトレーシーの裾を引っ張った。 「立ったままじゃないか、トレーシー。ディーラーは君なんだから、君が座らないと始まらないだろう」 「いえ、坊っちゃんと同じ席に着く訳には……」 「プライベートな場なんだ、気にしなくていい。ほら私の隣に座りなさい」  アルバートは強い口調で命じ、トレーシーを半ば無理矢理、空いていた隣の席に座らせた。そしてゲームを開始するよう促す。彼は落ち着きのない素振りのまま、クラブとダイヤの二を抜き、札を配り始めた。  全員にカードが渡り一段落した所で、アルバートは話を切り出す。 「それで、クローディオさんはどうしてここに? 【ニル】からは遠いでしょう。それに無関係ではない、とは一体……」  どうやらクローディオは【ニル】の出身らしい。【ニル】と言えば陸の孤島と呼ばれるぐらい、交通の便が悪い田舎町と聞いている。海辺の町、【ドゥオ】に着くには馬車を使っても半日以上かかるだろう。 「どっかのお喋りな木偶が俺の噂を言いふらした所為で、また珍妙な依頼が来てな。その《鳥狂い卿》をどうにかして欲しいという、突拍子もない依頼だ」 「依頼? 事件の? クローディオは墓守じゃないのか? 何だ依頼って……。もしかして最近流行りの探偵を兼業しているのか?」 「俺は墓守だ。それ以外の仕事はお門違いにも関わらず、押し付けてくる奴がいるんだ。全く迷惑な……。それで、この依頼の中核、《鳥狂い卿》の被害者になる可能性が貴様等にもある以上、無関係な話ではないだろう」
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