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「始めるか」
荒井の言葉を合図に、僕らは準備を始めた。
といっても望遠鏡を組み立てるだけなのですぐに終わる。
何か話すことがあるんじゃないだろうか、そう思いながらも何も話せないでいた。
望遠鏡も組み立て終わり、いよいよすることがなくなった僕らは、ほんのり水分を含んだ芝生の上に、並んで腰を下ろす。
丘の上からは、本当に同じものなのかと疑ってしまうほど、すっかり赤くなった太陽と、それに照らされる町が見え、ひとつの風景画のようである。
いつもなら何気ない話をしながら日が沈むのを待つのだが、今日は黙ったまま、ただ時間が流れるのを待っていた。
僕らの周りを漂う空気が、それを許さなかった。
沈黙に耐えかねて、なんとなく腕時計を見る。
「今何時?」
僕の仕草を見たのだろう、荒井が尋ねる。
「二十分くらい」
時計から目を離して答える。
「もっと細かい時間教えてくれよ。その時計のでいいから」
その言葉に、荒井の顔をそっと伺う。
顔は夕日に赤く染まり、口は閉じられ、遠くをみるような目をしていた。
その横顔を見て、ようやくわかった。
自然と、吸い寄せられるように僕の目線も夕日に移る。
彼は気づいていたのだ。
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