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「これは僕がしたくてしてることだ」
だから、僕を憐れむのは間違っていると、嘘偽り無い本当の気持ちだった。
それでも荒井は食い下がる。
「由実を忘れたくないのはわかるよ。別に忘れろって言ってるわけじゃないんだ。だけどさ、もう一年も経つんだ。そろそろこれからのことを考えてもいいと俺は思う」
ゆっくりと、けれど確かに僕は頭を振る。
違う。
「違うんだよ。そうじゃない、そういうんじゃないんだ。僕は……由実のことが好きじゃなかった」
だから。
「僕は自分が許せない。由実に謝りたいんだ」
沈黙が続く。
遠くでカラスの鳴き声が聞こえた。
夕日はもう、ほとんど沈みかけている。
夜の暗さと、夕日の赤さが混ざった空は、綺麗だった。
ちらりと盗み見た荒井の顔は、もう僕の方へは向いておらず、沈みかけた夕日を見つめている。
強い風が吹き、舞い上がる芝生と草の香りを僕に届ける。
その風がやんだとき、呟くような小さな声が耳に届いた。
「知ってたよ、お前が由実のこと好きじゃなかったこと」
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