5人が本棚に入れています
本棚に追加
「僕はもう、サークルにいく気はないよ」
言い終わるが先か、がたがたと大袈裟な音を僕の椅子が鳴らす。
そろそろ始業の時間だ。
「バイトなんて嘘だろ?」
荒井の声に椅子の音が止まり、僕の動きも止まった。
心臓だけがいつもより速く動いている。
「野口に聞いたんだ」
野口は僕とバイト先が同じで、この学校の生徒でもある。
「お前は金曜日は毎週休みにしてるって」
重力に負けたように、上げかけた腰が椅子に落ちる。
それに合わせて、椅子がまたがたりと大袈裟な音を立てた。
けれど、頭の中ではそんなこと気にもとめず、何か言わなければと必死に言葉を探していた。
口を開きかけ、また閉じる。
返す言葉が見つからない。
そんな僕の様子を見かねてか、荒井が再び口を開く。
「確かにお前の言う通りかもしれない。サークルはもうほとんど無いのと同じだ。俺だってそう思うよ。作ったやつも、もういない」
最後の言葉が針となって、ちくりと僕の胸を刺す。
そして一瞬よぎる、血のしみ、アスファルト、倒れる由実、サイレンの音、そして何も出来ない僕。
顔に出てしまったのか、荒井も僕の心境を、敏感に感じているようだった。
あるいは僕と同じことを考えていたのかもしれない。
浮かない顔をしている。
それでも荒井は、話すことを止めない。
「けどさ、まだ無くなってないんだ。だから、今日で終わりにしよう」
終わりに、と繰り返す荒井。
「昨日は由実の命日だった。お前も知ってたはずだ。由実が死んでからもう一年になる。だから、今日、サークルをやろう。それで、このサークルは終わりだ。ちゃんと終わらせよう」
荒井は席を立ち、
「いつもの集合場所にいつもの時間で。来いよ、渡したいものもあるしな」
僕の返事も待たずに出ていった。
最初のコメントを投稿しよう!