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荒井が去った後も、その場を動けないでいた。
始業のベルが鳴っても、それでも動けなかった。
それからどのくらいそこにいただろう。
みんな講義にいってしまったのか、気づけばもう二、三人しか残っていない。
腕時計を見る。
立ち上がって部屋を出た。
一瞬、講義に出ようかとも考えたが、今日はもう帰ることにした。
自転車にまたがり校門を出ると、目一杯ペダルを漕ぐ。
速く足を回す、そのことだけを考えた。
体中から汗が噴き出し、喉が痛くなるほど息は荒い。
でも、こうしている間は何も考えないでいられた。
家に着くと、まずシャワーを浴びた。
温度を調節して、少し冷たくする。
冷た過ぎない程度の水が、髪を濡らし、顔を濡らし、肌の上を滑っていく。
それが火照った体には丁度よく、気持ちが良かった。
シャワーから出ると、ベッドに横になり、天井を見上げる。
窓から外の光が差し込み、部屋の中は明るかった。
そっと目を閉じる。
聞こえるのは、鳥の声と虫の声、そこに時折子供の笑い声が加わる。
耳に神経を集中させ、何も考えないようにしようと、意識していた。
しかしそう思えば思うほど、どうしようもなく考えてしまう。
頭に浮かぶのは昔のこと。
荒井と僕と由実と、三人で星を見ていたあの頃のこと。
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