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唾を吹き飛ばしながら親父さんは言う。唾は私の後方三メートルに着地した。ふむ。最高記録だな。
「うおっ!?」
思わず、その衝撃に声が漏れた。体をその太くたくましい腕で上下左右にゆすられたからだ。同時に激しい機械音が発生する。カツアゲされる気分というのはこういうものなのだろう。まあ、実際はもっと怖いとは思うのだが。力加減に関して言えば、実際かそれ以上だろう。推測だ。
「何なんだよこの機械音は! そこの機械よりはるかにうっせーぞ」
工場内に重厚なクラシックが奏でられる。壁という壁で跳ね返り、天井と床で増幅される。まるで年末の大オーケストラのようだ。工場中に演奏者がいるようだ。機械音の。ビーム音の。
「だから、この音は何なんだ――――!」
声を張り上げるのに疲れたのか、私をゆすり続けることに疲れたのか親父さんは膝に手をついている。カツアゲは失敗に終わったようだ。工場中で起こっていたビームや爆発の音は発生源が静かになったことも相まって次第に小さくなり始めていた。無数の爆撃を受けた無傷の工場は静寂を取り戻し始めた。
「で、ステファニー。てめえ、今度はいったい何を作ったんだ? まさか、ついに作り上げたのか!?」
どかっと床に散らばっている鉄材に腰かけた親父さんは懐から煙草を取り出すとそう尋ねてきた。期待を含んだ煙が口から吐き出される。
しかし、その質問に私は押し黙るしかなかった。何と説明すべきかわからないのだ。入社して十年でかなり日本語は上達したが、それでも説明できないのだ。そもそも、フランス語でも私は説明しきれる自信がない。結局のところ何が何だかさっぱりわからないのだ。
いったいどうして――――――
「それが……親父さん。少しでも動くと何かしらの機械的な動作音がするのです。この体」
煙草は一瞬の静寂とともに地に落ちる。
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