騒音製造機ステファニー

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 絶望的だった。何をやるにも機動音が付きまとう。トイレに行くにも、顔を洗うにも、物を食べるにも、新聞を開くにも、歯を磨くにも、うがいをするにも、服を着替えるにも、靴を履くにも、玄関のドアを開くにも――――何をしようが、付きまとう。  こんな状況で満員電車に乗れと?  そんなことしたら、いったいどうなるというのだ。静寂が保たれる日本の電車でかすかに動くだけでも二十メートル級の爆音を浴びせるのだ。吊り革を掴んでいるだけでも、ビームライフルを掴む音が鳴り響くのだ。車両内は戦場じゃない。追悼式のような静けさが求められるのだ。そんななかで私が戦争をおっぱじめたらいったいどうなるのだろうか。考えるまでもないことだ。ただの不審者、ただの変態じゃないか。説明をしようと口を開くたびに問題が発生するのだ。情状酌量の余地すらないだろう。  だから、私は妻に自転車を借りたのだ。  自転車ならばまだ社会的ダメージは小さいと考えたからだ。全速力でこげば、爆音で走っても姿を見られにくいだろう、と。たとえ、工場まで十キロあっても、と。
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