騒音製造機ステファニー

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 浅はかだった。  そんなに甘くなかったのだ。私は暴走族よりはるかに大きな音とともに突き進んだ。たとえ、一瞬であっても半端じゃなく目立った。というより、耳立った。ペダルをこぐ足の一周は爆音の周期でもあった。まさしく音は爆ぜていた。立ちながらこぐことで左右に振れる上半身とこぎまくる下半身。同じタイミングで動くこいつらは極めて大きな音を生み出した。こんなところで物理学が発揮されてどうする。こんな意味不明なことに自然の摂理を適用するな!  ロケットの発射音並みの音をまとって突っ走る私。ただでさえ、まずかったというのに、日本では信号を無視できなかったのだ。フランス流の考えは通用しなかったのだ。信号で必ず止まらなければならないのだ。爆音人間がやってきて止まったらどうなるのか。答えは単純明快だった。血液が逆流し、顔が茹で上がった。オーバーヒートした機械のような危ない音が二十メートルサイズで繰り出されるのだ。ますます視線を集めるだけだった。  トドメは、青になった時だった。これが一番まずかった。  こぎ始めると同時に、私の足は発進音を出すのだ。すぐさま進みたいというのに、何の因果か、この音が最高点に達しないと発進できなかったのだ。三秒かけ、ボルテージの上がっていく足。そして、音。発進シークエンスをどうして再現したのか。私は足に問いたい。
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