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「…俺、春山先生のこと、
嫌いになりたくない」
「……」
「姉ちゃんに嘘なんかつかせて、
こそこそと…。
こんなの、めちゃめちゃ、
カッコ悪いよ」
さっきまでの激しい口調は、
穏やかで、寂しげな
呟きに変わっていた。
祐希の気持ちは、
痛いほど伝わって来るのに、
上手い言葉がひとつも
浮かんでこない。
沈黙の中、祐希が
もう一度、ため息をついた。
「どうせまた、
…俺に言っても
分かんないって、
思ってるんだろ」
「……」
「…もう、いいよ…」
祐希は、まるで自分を
責めるように、悔しそうな
顔をして立ち上がった。
「…心配しないで。
…母ちゃんには黙っとくから」
ドアに向かおうとする祐希に、
わたしは咄嗟に声をかけた。
「祐希」
祐希は足を止めた。
「待って。
…ちゃんと、話すから…」
「……」
祐希は黙って振り返り、
絨毯の上にすとんと座り込むと、
胡坐をかいた。
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