*1個目*

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  「ねぇ、それ一個ちょーだい」 「……は?」 なにこの人。 あたしに言ってるの? 目の前にいる、その人は、あたしの手の中にあるキャラメルを見ていた。 ちなみにここは教室前の廊下で、すれ違いざまにいきなり声を掛けられた。 「くれない訳?」 くっきりした二重の瞳であたしを見つめ、手を前に差し出している。 「あ、……どうぞ」 あたしは一瞬怯んだものの、おずおずと箱に入ったキャラメルを一粒取り出し、目の前にある手のひらに乗せた。 その人は満足そうに二カッと歯を見せて 「サンキュー」 とだけ言って、あたしの横を過ぎていった。 何、あの人。 あたしより頭1つ分出た、高い身長。 眼力のある瞳。 整った顔。 教師? 20代前半みたいだったけど、見たことない人だった。 訳が分からないままキャラメルを差し出してしまったあたしは、この時、なにも考えていなかった。
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