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3月。
俺は第一志望の公立高校に見事合格し、何事もなく中学を卒業した。
春休みの間はずっとつるんでた奴と遊んだりゲームをしたり、なにも無い日は昼まで寝たり朝まで起きていたり、なにかと充実した日々を送った。
そして今日は春休み最終日。春眠暁を覚えずとはよく言ったもので、朝日を浴びても腹部に重みを感じても大声で名を連呼されても、重たい瞼は開く気がしなかった。
「起きて! 起きてあっくん! あっくん起きて! あっくんあっくん! 起きて! 起きてあっくん! 起きて! あっくん! あっくん! 起きて!!!! あっくん!!!!」
「いや流石に起きる!!!! うるさ!!!!」
「あっくん! やっと起きた~!」
「何時だと思ってんだ!」
「……5時?」
「はやいわ」
くるまっていた布団をガバリと跳ね除けた俺に馬乗りになり、目覚ましを兼ねる枕元の時計を確認する女の姿。嗚呼、なんて既視感。
ここだけの話、4日前にもこうして起こされていたりする。
俺の上できょとん顔をしているのは、母親の瑞希さん。前回はホットケーキミックスのダマはどうしたらはやくなくなるのかと質問するためだけに俺を叩き起こした。
今日は何だと上半身を少し起こす。てかはよ退け。
俺の考えが手に取るようにわかるのか、も~ひどいな~と言いながら布団から(厳密に言えば俺の上から)のそのそと降りた母。そしてすぐに顔色を変え楽しそうに声を弾ませて話しだした。
「あっくんのね、高校が決まったの~!」
「いや何の話…… 明日入学式なんですけど……」
「それがね、久木じゃないの!」
「……あ?」
「あっくんには違う高校に行ってもらおうと思ってて~」
「……まってまって、処理落ちする、たすけて」
先述したように今日は春休み最後日。
明日から少しゆとりを持った真新しい制服に身を包んで、第一志望の公立高校で青春の日々を謳歌するのだ。
中学の時の知り合いとか先輩とか親友、とか、とにかく知ってる人が多い地元の高校に入学するという事実は、これ以上ないほど俺を安心させてくれた。
だから、きっとこれ以上なんてないのだ。
「いや…… どういうことだってばよ…… 詳しく説明しろってばよ……」
動揺のあまり春休みに1巻から見返した漫画の主人公のようになっていると、母の更なる爆弾発言が情け容赦なく投下される。
「あっくんにはね、久木高校じゃなくて並木高校に行ってもらおうと思って!」
爆発した。
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