第1話

4/6
前へ
/6ページ
次へ
電車で移動する時間が好きだ。拘束されてて脱出できなくて、しかもそれが何万人ってレベル。現代人は移動手段としてこの小さな空間にはいることを選んだんだ。 三日前のことを思い出す。確かあれは月に1000万は稼いでいるという内勤の話だったな。芸能人になりたいと主張したらかなり蔑まれたな。 「あんなものは籠の中の鳥と一緒だよ。マスコミと視聴者に飼い慣らされるペット。俺はあんなものにはなりたくないね。自由がほしいから」 そういうあんただって、箱の中でピイピイ喚いているだけじゃないか。箱と籠、ドングリの背比べだ。勿論そんなことは言わなかった。体験入店でわざわざ印象悪くする必要はないからな。 最近流行りのクイズRPGを起動する。イベントが始まってはいるがそちらには興味がない。課金しないと倒せない敵が出てくる洞窟なんて糞食らえ。 地道にこつこつと小さなキャラを育てていた。このゲームは萌えとか美少女とかそういうのに重きを置いていないところが魅力だと思う。なんにせよ、暇潰しにはもってこいだ。 目の前でJKがはしゃぎ出す。高校生の頃は見ているだけでテンションが上がったものだが、今はストレスがたまる。自分勝手でナルシストで世間から愛されるアイドルみたいなかおして、その上一人じゃ何も出来ないんだから困ったもんだ。 一呼吸、電車の振動を体全体で感じてみる。暖かい。湯冷めもまだ冷めきっていないうちに出てきたから、ぽかぽかだ。何せいきなり体験入店が決まったのだから、準備する時間などなかった。 今日は民族風のネックレスがプリントされたVシャツに赤と黒のマーブル柄のジャケットを羽織っている。パット見中2っぽいが、この服は買ってからずっとお気に入りだった。誰がなんと言おうと、好きな服は着たい時に着る。まして服装自由何て言われたらしょうがない。 恥ずかしい。という感情はいつからなくなったんだろうか。自分のすること、服装、食事、煙草、趣味。否定されることに耐性ができて、鈍くなったのではなかろうか。そんなことはもう分からないが。 電池が減る。スマートフォンは本当に切れるのが早い。この電池が切れると、自分までもが力尽きてしまう気がする。image=479169010.jpg
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加