第1話

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だんだんまる、というのは寮の近くにあるつけ麺専門店だった。チェーン店ではなく、地元愛溢れる感じである。味は濃厚で何種類かのカスタマイズをのぞけば、シンプルな作り。週に一回は来てしまう。 その日はあまり普段喋ったことのない友達と食べにきた。ここぞとばかりにホストの話をしていたが、笑うばかりではなんだか不完全燃焼だ。 そのうち馬鹿にされているのかもしれないと気づき、相手の話を聞くことにした。彼は地元が同じなのだが何せ広い県だから、あまり共通のネタなどなかったのだが。 それでも最近のアニメ、学園戦闘モノの話をするときは目が輝いていた。そういう類いのモノが好きなのかもしれない。ウィズの体力溜まっていそうだな、とか考えながらつけ麺を口に運ぶ。 どっしりとした魚介ベースの麺は、二日間断食している胃と口に感覚を蘇らせた。食べるってこんなことだったのか、と当たり前のことを染々と思う。肉を早めに消費して、増した野菜を豪快にかきこむ。歯応えも鮮度もばっちりだ。ここの野菜は確かにうまい。 空。 俺は不意にその名前を思い出す。あいつはたしか、ここに来たいと言っていた。そんなに美味しいつけ麺だったら、食べてみたいと言っていた。だが、空と一緒にここには来たくなかった。 なんというか、俺は人を覚えるのが苦手だから、場所と人を関連付けるくせがあったからだ。ここだんだんまるは、空の場所ではない。ここは煙草を教えてくれたあの人の店だ。 振り返る。過去のことを振り返るのは、やっぱり楽しい。楽しい時間を思い出して、今日という苦しい時間を生きているんだ。 「スープ割いかがですか?」 気がつくと器は空になっていた。カウンターにあげ、熱々の湯を注いでもらう。これがまたうまい。何度食べても飽きないものこそ、究極の料理なんじゃなかろうか。 外に出ると冬の風が顔を撫でた。体の内部から暖まっているので、そんなものは気にならなかったのだが。image=479169020.jpg
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