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こんなに大変なときなのに、どうして助けてくれないのだろう。
そう呆れ果てた少年は、部屋に少女を残し、再び甲板へと引き返しました。
しかし少年が戻ったとき、強い風がごうと吹き荒れ、何にも捕まっていなかった少年は、深く暗い海に放り出されてしまいました。
荒れ狂う波のせいで上手く泳げず、少年は溺れ、少しずつ海底に沈んでいきます。
そんな少年の目に最後に映ったのは、自身の口から溢れた小さな空気の泡と、水面に向かって突き出す自身の手だけでした。
だんだんと薄れていく意識の中、少年は、あの少女のことを思い浮かべていました。
自分のことはいい、せめて、せめて彼女だけでも、この大嵐から抜け出せますように……そう祈りながら、少年は目を閉じました。
しかしその時のことです。
少年の耳に、あの少女の声が聞こえてきたのです。
きっと死が近いから、幻聴だろう、そう少年は思いました。
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