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けれどその声は、少年に語りかけているかのように、歌を紡ぎ始めました。
聴いておくれ 私の唄を
荒れ狂う海の道標に
私の唄を 聴いておくれ
そして 私の海に帰ってきておくれ
赦してくれるなら
私の海に 貴方の声を溶かしておくれ
聞いたことの無い言葉だったが、しかし、少年の耳にははっきりとそう言っていることが、不思議と分かったのです。
最後の力を振り絞り、少年はゆっくりと水面に向かって泳ぎました。
そして少年の目に映ったのは、豪風雨の中、岩にしがみついて歌を歌う、あの少女の姿でした。
しかしその姿は、少年の知るあの逞しい姿ではなく、銀色に輝く髪に、美しい翡翠色の瞳を持つ少女でありました。
そして更に驚いたことは、少女の両の足が、人間のそれではなく、魚のひれのようだったのです。
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