第2話

52/57
前へ
/123ページ
次へ
そう、その少女の本当の姿は、人魚だったのです。 豪風雨の中、頑なに外に出ようとしなかったのは、万が一にでも海に落ち、人魚であることが知られてはいけないからだったのです。 少女は少年の姿を見つけると、涙を流しながら、少年の方に泳いできました。 少年の体を支えるように波に身を預け、きつく抱き締めます。 そして耳元でずっとこう囁くように歌うのです。  ごめんなさい ごめんなさい  この嵐は私のせいなのです  私が人の世界に長くいすぎたせいなのです  この嵐は私への罪であり罰なのです  私の弱さのせいなのです しかし少年は優しく微笑み、少女の唇に自分の唇を軽く触れさせ、小さく呟きました。  僕は君に出逢えたことが何よりもの宝です  この命 君の海に帰るのなら  喜んで捧げましょう そう言うと、少年はついに目を閉じ、一生開かれることはありませんでした。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加