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「…幕府が、天子様の勅許…つまり許可なくして異国と条約を結びました。」
「異国と…条約!?」
しばらく黙っていた先生から発せられた事実は、あまりにも衝撃的なことだった。
数年前、海から突如として現れた黒船。そしてそこに乗っていた異国の使節ペリーが、幕府に対して開国を命じてきた。
当時老中首座だった阿部正弘は当然これを拒否するが、日本と異国の戦力の差は歴然。翌年またも訪れたペリーと、事態を穏便に済ませるためにも条約を締結、だが後に日米和親条約と呼ばれるようになるこの条約に対し、武士が不満を抱えるのに時間はかからなかった。
そうした中で生まれた、異国、異人を実力行使で排斥しようという思想である、"攘夷"。
先生はその攘夷を掲げる人物の一人だった。
「この国の皆の想いを知りながら、自分可愛さに一度ならず二度までも異国と条約を結ぶなどというその所業…これがどうして許せましょうか。」
拳を強く握りしめながら努めて冷静に話をする先生を見ていると、こっちまで苦しくなる。
ふと周りを見てみれば、ここにいる全員が先生と同じような顔をしていた。
字の読み書きから世論など、何から何まで全てを先生から学んだ私達は、当然先生と同じように攘夷の思想を掲げている。
だからこそ、この事実は私達にとってもとても悔しく辛いことなんだ。
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