第3話 #2

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「トマトのドーナッツって、甘いんですか?」 薄力粉をふるいにかけながら、 トマトピューレをさらに濾す正造の真剣な顔を見る。 「ここ、ケーキ屋だからな」 元芸能人だけあって、 本当に、完璧な容姿なんだよね。 冷たい顔立ちのようで、童顔に見えるのは、大きな瞳のせい。 ″ 俺、子供 好きなんだわ ″ この人、 今朝の事、本気なんだろうか? 「お前、粉ふるいは、まだまだだな。筋肉痛になるまで練習しないと、職人にはなれないぞ、 あ、 お前は、なる必要ねーか。」 「……上手くはなりたいんだけど」 「ふぅん」 正造は、自分の作業を中断して、 私の背後に近寄り、 不器用な両腕を掴む。 「こうだ」 私のやり方と違い、高速かつ細かに粉をふるい出す。 「早い!!」 工場長と同じくらい、さらさらの薄力粉が誕生した。 その感動よりも、 こんなに密着して指導してくれることに、ドキドキしてしまっている。 この人とは、 いろんな事、たくさん、しちゃったのにね。 ″ キス ″ 以外なら………… 「思ったんですけど、甘くないのってどうですか? 中にトマトのソースと、チーズが入ったイタリア風とか」 ドキドキをごまかすように、 思い付いた事をすぐに口に出してみる。 「チーズ?」 「そう。」 「却下」 「はやっ!」 「だから、言ってるじゃん、ここは甘い夢を売る洋菓子屋なの! そんなファーストフードは、マクドナルに任せりゃいいんだよ」 ………………なるほど。
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