32人が本棚に入れています
本棚に追加
「聞いていい?」
お風呂のなかで、正造に背中を見せて、聞いてみる。
顔を見ながらは、きつい。
「なに?」
「お母さんは、早くに亡くなったの?」
正造と、社長は顔は、全く似ていないように思える。
きっと、お母さんに似てたんだと、
正造と同じ顔をした、とても綺麗なお母さんだったんじゃないかと予想できる。
「うん。俺 生んだ時に亡くなったらしいから」
「………………生んだときに?」
「なんせ高齢出産だから、妊娠中毒症にもなりやすかったらしくてさ。
分娩の時に出血多量と、炎症反応がひどくて、持たなかったって。」
淡々と話す声からは、
悲しみは感じられない。
それは、母親の実物を知らないからなのかもしれない。
「………………お母さん、無念だったよね、きっと」
私なら、
成長を見ずにして、我が子と生きていけないとなると、
成仏もできないで、
家の中をさ迷ってるかもしれない。
「だろぅな。男と女じゃ、子供に対する愛情は、きっと、原型の大きさが違うような気がするし」
正造は、
ザブン!と湯船から出ると
髪を勢い良く洗って、数分でまた、湯船に戻ってきた。
「はやっ!子供みたい。ちゃんと洗ったの?」
「洗ったよ。.俺を子供扱いすんなよ」
そして、
お湯の中で
私を抱き締める。
「早く、子供取り戻してこい」
「………………うん」
大変な時なのに、
ありがとね。
そして、
ごめんなさい。
あなたを一時的にでも、
信じられなかったこと。
「芹南、戻ってきたら、ここにも遊びに来るね」
言葉に出せない気持ちが、
私の声を震わせた。
最初のコメントを投稿しよう!