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その日は、午後から正造が病院に向かったため、
ケーキ仕上げの方も山岡工場長が仕切って1日の業務を終了した。
「社長、退院できないんだろうね」
「もし、亡くなったら、会社潰れたりしないのかな?」
見習いパティシエや、他の正社員の男性たちから、そんな不安な声も聞かれた。
工場の床を最後にモップがけする山岡さんの背中を見ながら、
ふと、
社長に誘われて ここに腰を納めたこの人は、
最悪な場合、この店から去るんじゃないかと、
そんな思いがよぎった。
「山岡さん」
「なんだ?」
道具や機械を拭いて、工場長にさりげなく
「正造さんのこと、嫌いですか?」
今後に繋がることを聞いてみる。
「なんてこと聞くんだよ?
そんなこと聞いて、アイツにチクる気じゃないだろうな?」
………さりげなく、でもなかったか。
「そうじゃなくて………」
これ以上、
正造に孤独感なんかを味あわせたくはなかった。
彼の負担が、
これ以上増えることを、
防ぎたかった。
「俺は ここの古臭い感じのお菓子が好きなんだよ」
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