32人が本棚に入れています
本棚に追加
緊張しながら、玄関の覗き穴を見ると、
『あ……れ…1人?』
自宅アパートを訪れてきたのは、
元夫の優だけだった。
「調停人は?」
ドアを開けて、元夫の周囲を見回す。
「裁判所から呼び出される日が決まったから、その前に話し合いたかったんたけど………
他にもたくさん事案抱えてるらしくて来れなくなった」
きっと、
嘘だ。
「おかしいと思ったんだ。何で、弁護士がうちに来るんだろって」
裁判所に呼び出されて、話し合いをするって聞いたことあったから。
「とりあえず、お互いの条件を提示し合おう。
一回の話し合いで済むように」
妙に落ち着いた優は、
半分開けたドアを左手で、完全に押し開けた。
「………………………外で話そう」
家の中に入れたくない。
もう、
他人なのだから。
「じゃ、手短にここで。」
「………………………」
″手短って、なによ?芹南の一生のことなのに ″
「こんばんはー」
アパートの滅多に会わない隣人が、帰宅してきて、
優に挨拶をしている。
若い男子学生だ。
それをシカトして、
「………………お前が早急に、親権なんかを俺に譲ってくれたら、
養育費と同額、毎月お前に払うよ」
優は、事を簡単に運ぼうとしていた。
「それは、断る」
欲しいのは、慰謝料じゃない。
″ 芹南 ″
「ふぅん。強気だな。
だけど、こっちが下手にで出るうちに飲んだほうがいいぞ」
ずっと愛していける家族が欲しい。
「下手に出るも何も、
あんたは、私より悪い立場にいるのよ?わからないの?」
お互いを傷つけるような 曝し合いだけは、防ぎたい。
「立場が悪い?」
ドアを押さえていた手をゆっくり下ろして、
バタン!
と 優は 玄関の中まで入ってきてしまう。
「………………ちょっ?!」
「それは、アルバイトで生計たててるお前だろ?」
最初のコメントを投稿しよう!