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それを知ったのは、
社長が国立病院に搬送されて、正造と事務員さんがそれに付き添い、
夕方になってもオーナーが戻らない会社で、
山岡さんたちと工場を掃除しているときだった。
「山岡さん、知ってたんですか?」
「いや、今日事務員から聞いてびっくりしてる。」
「………………肝臓ガンって治るんですかね」
「発症して四年以上経ってるらしいから、厳しいかも。
社長が手術したり入院したりした記憶はねぇな」
「どうなるんですかね?ここ」
和菓子の川島さんも布巾を漂白剤につけて、それを見てため息をつく。
四年か
ちょうど、正造が東京で芸能界を引退した時期と重なる。
もしかしたら、
「ここは、正造がいるから大丈夫だ」
芸能界で芽が出なかったからではなく、
店を継ぐために、急速にその世界から去らなければいけなかったのかもしれない。
「さて、工場閉めるか、
佐藤お前、先に会社でろ」
「え………」
「駐車場施錠しちまうぞ、もう誰も会社戻ってこねーから」
「はい」
今
正造はどんな思いで付き添っているのだろう?
ついこの間の母を失いかけた自分と重なる。
「もう少しここにいます」
工場の奥敷地に、社長や正造が住む自宅が見えている。
もしかしたら、帰ってくるかもしれない。
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