第3話 #4

4/35
前へ
/35ページ
次へ
車の窓をコンコン!と叩かれ、 慌てて飛び起きる。 「しゃ、社長はっ?!」 案外落ち着いた様子の正造が、煙草をふかしながら、中の私を見ていた。 「危ないのは危ないけど、 あと一週間から半月持つかなって医者が…」 「………………………」 返す言葉もないまま、 車から降りて正造の前に立つ。 もう夜の10時くらいだろうか? 風はすっかり秋一色で、上着無しでは寒くてガタガタなりそうだった。 「で、お前なにしてんの?」 正造は、そんな私の肩に手を置いて、 寝起きの私の顔を見つめる。 「待ってた、意味もなく。」 「意味もなく?馬鹿だな、病院に来れば良かったのに」 それも、考えたけれど、ただの1社員にしか過ぎない私。 「そんな、身内でもないのに………」 正造は、フッと小さく微笑んで 「親父が生きてるうちに、 安心させてやりたかったな」 また、 私を戸惑わせる事を口にする。 「………………………ごめん」 「謝る位なら、今夜 俺に加勢して」 「え?」 「今日中に、絶品トマトドーナッツ完成させてやる」 職人の顔で 私を翻弄する。 「俺んち、来て」
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加