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「家で作れるの?」
真っ暗だった家に灯りをつけて、
正造は、自宅に私を招き入れた。
「工場みたいに揃ってないけど、台所だけは改装してある」
「うわ」
すっごーい!
キッチン広い!調理台が、畳一畳分くらいあって
オーブンも家庭用よりも大きなものが、どっしり構えてて
小さな厨房みたいだ。
「親父は、いつもここで、夜中にゴソゴソやってたな」
「根っからの職人だね」
冷蔵庫から卵やバターを取り出して
小麦粉も家庭用計りで重さを計り始める。
「トマトプューレー作らないと。
お前に生地任せていい?」
正造は、冷蔵庫から取り出したトマトを湯剥きして丁寧に濾している。
「病院で付き添ってなくていいの?」
水を差すみたいだけど、
こんなことをしてる場合じゃないのでは?と思ってしまう。
「今、それは、おばさんに頼んでるし、
職人の息子らしく、新商品を完成させて
安心して見送ってやりたいんだ」
「………………そっか」
「孫は、間に合わねーからな」
「バカね」
「うん、お菓子バカ」
とても、切ない状況なのに、
一旦作業に入ると、とても集中して作り出す正造。
「ふわふわ感が足らねーな。
苺、お前メレンゲできる?」
「うん。機械ほどは出来ないけど」
「OK、頼む」
ひたすら、満足のいくまで生地を作り直すパティシエ根性。
やっと納得いく生地ができたのは、
夜中の2時だった。
「焼くぞ」
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