第3話 #4

5/35
前へ
/35ページ
次へ
「家で作れるの?」 真っ暗だった家に灯りをつけて、 正造は、自宅に私を招き入れた。 「工場みたいに揃ってないけど、台所だけは改装してある」 「うわ」 すっごーい! キッチン広い!調理台が、畳一畳分くらいあって オーブンも家庭用よりも大きなものが、どっしり構えてて 小さな厨房みたいだ。 「親父は、いつもここで、夜中にゴソゴソやってたな」 「根っからの職人だね」 冷蔵庫から卵やバターを取り出して 小麦粉も家庭用計りで重さを計り始める。 「トマトプューレー作らないと。 お前に生地任せていい?」 正造は、冷蔵庫から取り出したトマトを湯剥きして丁寧に濾している。 「病院で付き添ってなくていいの?」 水を差すみたいだけど、 こんなことをしてる場合じゃないのでは?と思ってしまう。 「今、それは、おばさんに頼んでるし、 職人の息子らしく、新商品を完成させて 安心して見送ってやりたいんだ」 「………………そっか」 「孫は、間に合わねーからな」 「バカね」 「うん、お菓子バカ」 とても、切ない状況なのに、 一旦作業に入ると、とても集中して作り出す正造。 「ふわふわ感が足らねーな。 苺、お前メレンゲできる?」 「うん。機械ほどは出来ないけど」 「OK、頼む」 ひたすら、満足のいくまで生地を作り直すパティシエ根性。 やっと納得いく生地ができたのは、 夜中の2時だった。 「焼くぞ」
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加