第3話 #4

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結局、お風呂にも入らずに、寝室に行くこともなく 朝の五時 目が覚めたのはソファーの上。 「寒っ」 その辺にあった男性用の薄手のロングコートを被っただけで、 二人ともティシャツと下着だけの状態で寝てしまい 身体はすっかり冷えきっている。 お風呂………貯めようかな。 正造はまだ、眠っていた。 起き上がってリビングの先のお風呂場を探しに歩く。 『無駄に廊下長くない?』 これ、朝だからいいけど、真夜中はトイレもきっと怖いよ。 カツーン! 『なんの音?』 雨戸が閉められていない縁側のガラス戸から これまた立派な日本庭園が見えて、思わすその足を止める。 『池がある!すごい! 錦鯉が泳いでるし、竹でできた名前分かんないけど、あれもある!』 やっぱり、金持ちなんだなぁ。 しばらくその庭の美しさに見とれていると、 「親父がいなくなったら、庭師雇わなきゃいけねぇな」 いつの間にか起きてきた正造が、後ろに立っていた。 「おはよ………」 やっぱり、夜の行為の朝は気恥ずかしい。 「さみぃな、風呂探してる?」 「うん。ね、アレ、何て言うの?」 私は水を通して、音を立てる竹の名前を聞いてみた。 「えっと、なんだっけな。 ″ 鹿威し ″だっけ?」 「しし?」 「昔は、野生の動物が庭荒らしに来てたから、そいつらを追い払うために作ったらしいよ」 「へぇ」 正造って、学校行ってなかったらしいのに、 そんな知識はあるんだね。 「でも、あんな上品な音じゃ動物逃げないよね?びびるの亀くらいだよね?」 「亀の方が肝すわってんじゃねぇかな?」 正造は、笑いながら 私の腕をとる。 「早く風呂ためないと、風邪ひくぞ」 そうだ。 私達の朝は、休日の朝じゃない。 社長が倒れても、 店や工場は開けなければならない。 正造の肩にのしかかるものは大きい。 私に、 その手助けは、できるのかな?
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