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正造が、和泉とおんなじことを言っても、
今の私には何にも響かない。
「優は、失ったから、取り戻したいだけなんだよ?」
首を横に振りながら
正造のポケットから飛び出した左手と冷たいままの右手で
自身の耳を塞いだ。
″ 聞きたくない ″
「そうかもしれないけど、だけど、
俺、もっと酷い男だと思ってたんだ。
だから、俺ならお前と子供、
幸せにできるって」
別れの言葉とか、聞きたくない。
「苺は、
″ 上木 ″ に戻るのが、一番幸せになる近道なのかもしれない」
正造の、切り開く道を、
そばで見られない未来なんて
それは、幸せな未来じゃないよ。
正造は、
拾って、しわしわになった、胎児の写真を
そっと
私のポケットに仕舞い込んだ。
「もし、
お前が今度も幸せになれなかったら
そんときは、俺が
みんなまとめて引き受けるから」
「………………正造………」
「だから、お前は、戻れ」
「………………嫌だ」
すっかり、空は暗くなったのに
今日は、
ちゃんと
星が見えるなんて、
私の心と視界は、
おかしくなってしまったのかな?
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