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「取り乱して悪い。あの…俺、クラスメイトの黒筒って言うんだけど、初白さん……で良いんだよな?」
なんて呼べば良いのだろうか、彼女とまともに会話した事なんて一切無かったしな。
よく考えたら彼女と面と向かうのはこれが初めてかもしれない。
「詩音で良いわ、初白さんなんて他人行儀はやめて。
それに、私の前でそんなに畏まらないで」
「……悪い」
彼女の視線が痛い。
あの透き通った紫色の瞳がまるで研ぎ澄まされた刃物みたいに突き刺さる。
普段なら、彼女とこうやって面と向かって話す機会など無かった。
なにせ学園のマドンナ、高嶺の花だ。
人気はあるが、その容姿や立ち居振る舞いがあまりに強過ぎて彼女の周りに人はいない。
そんな彼女と話す機会なんてまさかあるなんて夢にも思っていなかった。
「俺はさっきそこの部屋で目が覚めた。携帯は抜き取られて連絡はできないし、ここがどこかも分からない。そっちはどうしてここへ?」
「……さあね」
しばらくの沈黙の後、彼女が笑った。
ひどく意地の悪い、それでいてどこか人を誘惑するような笑みを浮かべた。
紫色の瞳が爛々と困惑する俺を捉え、体全身が麻痺したように動かなくなる。
口元は三日月の孤のように釣り上がり、血色の良い滑らかで艶やかな唇からは綺麗な白い歯が覗いている。
まるで、これは……
例えるならそう、童話に出てくる悪い魔女そのものだ。
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