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放送ブースの扉を開けると、
中から懐かしい匂いがした。
金属とホコリ臭さが
混ざったような、独特の匂い。
現役の時には何も考えずに
吸っていたこの部屋の空気は、
それだけで記憶を刺激する。
扉を開けたまま中まで進み、
椅子を引き出して腰かける。
使い慣れたマイクに、
そっと手を触れる。
3年の間に、何度ここで
原稿を読んだのだろう。
下校放送や『恋パラ』を
合わせたら、きっと数え切れない。
落ち込んだ時も、
嬉しいことがあった日も、
わたしたち放送部員は、
本番を迎えればいつも同じく、
フラットな状態で
原稿を読んでいた。
その日々は、もう、
ずいぶん遠いものに
なってしまった気がする。
――何回放送したか、
正の字でカウントしとけば
良かったかな。
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