344人が本棚に入れています
本棚に追加
***
車に乗り込み、
エンジンをかけてから、
先生はぐっと手を伸ばし、
わたしのシートベルトを
引き出した。
カチ、と留め、
わたしの顔を窺う。
「まだ、泣いてんの」
「…もう、泣いてません…」
わたしはぐずぐずと
鼻を啜って、ハンカチを
鼻の下に押し当てた。
「…ばかじゃないの。
泣くことないのに」
先生は呆れたように言って、
頭をくしゃくしゃと
撫でてくれた。
その手のひらがあまりにも
優しくて、再び涙が浮かぶ。
「…ほらまた。
…なんだよ、どうしたの」
わたしはごしごしと
涙を拭いてから、
先生の顔を上目づかいに見た。
「みんな、優しいから…」
「…え?」
最初のコメントを投稿しよう!