其の七

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〈土方視点〉 「…………………馬鹿にしませんか?」 もし、真剣に剣術をしてぇんなら……………… 「誓ってしねぇ、信じろ」 宗次郎が連れてきた童は“剣術を学びたい”そう言って勝っちゃんに頭を下げた。 もちろん、器のでけぇ勝っちゃんは心良く承諾した。 でも、俺は正直言って怒りを覚えた。童に。 剣術を、武士を馬鹿にされた気分だった。 剣術は簡単そうに見えて、奥の深けぇ武術だ。 こんな背の低い、しかも年が十くらいの童に出来るわけねぇ。 だいたい女は男の三歩後ろをついてりゃいいんだ。でしゃばるもんじゃねぇ。 そう思って、罵声を浴びせた。 そしたら俯いていたそいつは、いきなり顔を上げるなり俺の一物を蹴り上げた。 意外にも強烈なそれに俺は思わず倒れこんだ。 ガキを連れた宗次郎に見つかるなり、 爆笑されるは、他の奴らに見世物にされるは…………………… 勝っちゃんには叱咤されるは、呆れられるは…………………… 童への恨みは募るばかりだ。 もちろん大人気ないのは重々承知だ。 ガキ特有の憧れから学びたいと言い出したのかもしれないし、怒鳴った俺も十分悪い。 それでも納得は出来ないし、一物はまだ痛ェ…………………… だから探して文句を言って、追い出すつもりだった。 けどこいつからガキなりの真剣さが感じられた。 いや、ガキっつーより妙に年寄りくせぇ覚悟。表情だけは一丁前に大人びて見えた。 だから理由を、聞くだけ聞いてみようと思ったんだ。 「………………もし、死ぬんなら誰かのために戦って死にたいんです」 …………………これが童の言葉か?童の考えることか? ぜってェ…………………違ェ。 俺は妙に大人びた童が不気味に、そして哀れに見えた。
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