其の七

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「…………………何でそう考えたんだ?」 何がこいつを、そんな風にしたんだ? 「…………………それを答える義理はないです」 答えたくねぇ。か……………… 「言わねぇと試衛館には通わせねぇぞ?」 「それを答えたら試衛館に通ってもいいんですか!?」 途端に童の表情が明るくなる。分かりやすいな……………… 「ふんっ、前向きに検討してやる。だが、俺の質問に真面目に答えたら、な」 嘘は許さねぇ。 童は少し考えた後、目を大きく開き俺を見つめた。 「……………………昔、襲われたことがあるんです。 だから、護身術も兼ねて………………そういう人を守りたいんです」 「何されたんだ……………?」 「…………………聞いちゃうんですか?」 “襲われた”にも色んな種類がある、まさかと思うが…………………… 「言え」 言った途端、童は少し目を歪め眉を下げた。 その瞬間、俺は後悔した。 聞くんじゃなかった…………………………と。 「…………く、暗がりに連れてかれて………大勢で、ふ、ふく……服に手をかけられて……」 言葉を漏らすたびに声は震え、目から溢れた雫は頬に跡を残していった。 何聞いてんだ……………俺……………… こいつがこんな風になったのもそれが原因の大部分だろう。 元々それを聞き出そうとしてたんだが………………辛いことを思い出させただけじゃねぇか。 「悪ぃ、言うな、言わなくていい……………」 童をあやすように優しく抱きしめ、頭を撫でる。 それが引き金となったのか、童はわぁわぁと声を上げながら幼子のように泣く。 こいつの思いは分かった。 泣くほど辛いことを、剣術をやるために思い出し、初めて会った奴に話したんだ。 十分だ、十分すぎる。 こいつは剣術を遊びで使わないだろう。言葉通り、人を守るために使う。 だから、こいつが上達するまで俺が教えてやろう。俺が………………守ってやろう。 そう思った。
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