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そのおでん屋で、その酒をどのくらい呑んだかは、覚えていない。
私がはっきりと覚えているのは、達也がカウンター越しに、年配の主人に、
「熱燗のお代わり下さい。あと、卵と大根」と言ったところまでだ。
あとは、その場面しか思い出せない途切れ途切れの記憶。
白い皿の上の、はんぺん、がんもどき。添えられた和からし。
時間が経つにつれ、賑やかになる店内。
そして……
なぜか、彼の亡き妻の写真を見せてくれとせがむ私。
木のカウンターの上に置かれた、青い着物を着た在りし日の彼女。
……次の場面は。
達也が背広を羽織る。
ふらつく私の黒いパンプスの足元。
達也が私を庇うようにして、おでん屋の古びた縄の暖簾をよけ、二人で夜の繁華街へと歩き出したところ。
耳が痛くなるほどの厳冬の夜空。
寄り添い、自然に腕を絡ませたのは、私が寒さに弱いせいだ。
ーーもう一軒、行かないか?
昔、友達と行ったバーがこの先にあるのを思い出したよ。
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