39人が本棚に入れています
本棚に追加
ーーなぜ、そんなことを訊くの?
そう問いたくなるのを、口の中の真鯛が救ってくれた。
窓から見える夜の景色は、
週末の解放された酔客の街だ。
いつも、仕事が終わるとまっすぐに帰宅する私には、久しく見ていなかった光景。
23歳の羅夢とは、所属する課が違うから、まともに喋ったことなどない。
会社のロッカーが隣同士なので、挨拶と今日は寒いね、とか
午後から雨が降るみたいだよ、とか話す程度だ。
こうして向かい合っていると実感する。
羅夢は、私の苦手なタイプだ。
(軽く酔っていなければ、一緒に過ごすことは地獄だっただろう)
13歳下の彼女の前では、つい『物分りの良い、年上の女』を演じてしまう。
笹木羅夢。
私達は、仲がいいわけではない。
なのに、こんな時間にこんは場所にいる。
はたから見たら、仲良し姉妹にでも見えるかもしれない。
この洋風居酒屋に入ってから、30分が経つけれど、会話は弾んでいるとは言い難かった。
「これ、美味しいバルサミコ酢ね。
羅夢ちゃん、好き?」
…本当はそんなこと、どうでもいい。
最初のコメントを投稿しよう!