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塀の陰に隠れたまま小さく手を振り返し、念のため自分の家を見上げ、兄の部屋の窓に人影がないことを確認してから思い切って駆け出す。
桜の木まで辿り着くと、わたしはその太い幹の裏側に回り込んで身を隠した。
「どしたんだよ、コソコソして」
俊輔は枝の上からいたずらっぽい笑顔を見せた。
「こっそり抜け出して来たから……」
「何? プチ家出?
章ちゃんとケンカでもした?」
「違うよ、部屋の窓から、俊輔が外に出て来るのが見えたから。
どうしたのかなって思って……」
「……あー」
目の高さにある俊輔のスニーカーが、プラプラと揺れた。
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