慣性の法則

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「おぅおぅ。神田ちゃん最強だねぇ。」 俺の同期で相方の江川護(エガワマモル)が話し掛けてきた。 「お前が言うかよ。」 どちらかと言えば彼の方が、能力は強い。 彼の能力は『(強制執行系)エネルギー保存の法則』だ。 熱から運動 運動から光 などのように、同じエネルギー量で違う物へと変換できる。 それに対して俺は『(無視改変系)慣性の法則』である。 任意の物体に働く慣性を無効化できる。 先程の訓練で上官の攻撃を無効化したのもこれだ。 物体には慣性が働く。 勿論、腕や足など人間の身体にも。 パンチは筋肉の力で、腕を前に出すことによって攻撃するが、筋肉に最大の力が掛かっているのは加速の時で、あとは腕に働く慣性に任せて振り抜いている部分が大きい。 慣性が働いていれば、腕は攻撃対象に接触しても尚、進み続けようとし、それが衝撃へと変わっていく。 しかし、慣性が無ければ、対象に接触した瞬間、腕は対象から反作用を受ける為、失速・停止してしまう。 勿論、筋肉によって腕を伸ばそうという力が働いているから、0になることは無いが、如何せん力が弱い為ダメージなど皆無である。 1kgの鉄球を1m上から仰向けの人の腹の上に落としたら大ダメージだが、その鉄球をそっと腹の上に置いた場合は、たとえ1kgの重力が腹を押していようとなんてこと無いのと同じである。 つまり、慣性を無くすことで、勢いの無い純粋な筋肉の力のみでのダメージにできるのである。 それも、振り抜いて力の抜けた筋肉の。 だから、俺に物理攻撃は効かない。 それで江川は俺のことを最強というのだが、彼も相手の腕の運動エネルギーを他のエネルギーに変換して攻撃を無効化できるので、似たようなものだ。
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