第百六段 「龍田河の紅葉」

79/102
6224人が本棚に入れています
本棚に追加
/451ページ
「……」 これ以上、本田を異常な状態に導きたくない光流は祝詞奏上をやめた。光流に「助けるな」と言ったゆき乃も、さすがに絶叫する本田を不安そうに見る。 「一部まだ切り離されていない魂が絡みあっているようですね」 豊川は片膝を地について本田を見つめ、そのもがき苦しむ原因を探り当てた。 「じゃあ、もう一度切り離す」 そう言って、手を振り上げた光流に豊川は首を振った。 「それでは、両者の魂に傷がついてしまいます。毛細血管のように複雑に絡んでいますから」 「う……」 思わず光流は顔をしかめた。そして考え込む。 「それじゃ、二人は離れられないってことですか」 そう尋ねるゆき乃の耳と尾は、力なく垂れる。 「今までのように共存できればいいのですが、反発しあう今では共存は難しいでしょうね」 「それじゃ、一体どうすれば……」 豊川の答えを聞いたゆき乃の耳と尾は、ますます力を失った。 「ほっとけばいいんやさ」 「しかし、お美津狐。このまま放っておくのはあまりにも酷では」 「荼枳尼天様もお人好しすぎるんやさ。こやつのせいで犠牲になった者たちを忘れたらあかん」 「……そうです、ね」 豊川は眉を寄せた。そのとき、式神たちの会話をジッと聞いていた光流が口を開く。 「先生、中将は優秀な守護だったんですよね」 「はい。人の心も、妖の心も、神の心も理解できる特別優秀な守護でした。鬼となる前は……」 「そっか、じゃあ……鬼じゃなくせばいいワケだ」 「きゃっ」 光流は笑顔を浮かべ、ゆき乃の腕を掴んで引き寄せた。
/451ページ

最初のコメントを投稿しよう!