第百九段 「花よりも」

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スカイツリー天望回廊でのあの時。豊川は口を動かさず、声に出さず光流に話しかけた。 「この声は君だけにしか聞こえません」 「テレパシー的な? センセそんなことも出来たんですね」 光流は周りをチラリと見た。誰も気がついていないようだ。 「クロは高校生くらいの歳まで、この一晩で成長させます」 「だから独立させるって言ったんですか。クロのやつにいきなり一人暮らしなんて大丈夫なんですかね」 光流は腕の中でグッタリとしているクロを見た。 「クロなら大丈夫です。そして……あ、これは三井さんに内緒ですよ」 それから、豊川の声は楽しそうに光流に秘密の計画を打ち明けた。光流は黙ってふんふんと頷く。 「それって秘密にすることですか? そもそも、なんでゆき乃に内緒なんです?」 「それは、彼女の驚く顔が可愛いからです」 「は?」 子供のような発想の豊川に光流は唖然とするが、神とは純粋で子供のようなものなのかもしれないと納得した。 「表情豊かな三井さんの驚く顔が見たいんです。とても楽しみです」 「アイツの……そうですか、じゃあ内緒ってことで」 光流は心の中で豊川に親指を立てた。豊川は誰にも分からないよう唇だけで微笑んだ。 そして今、光流は浅草神社の社務所で美津や本田と笑い合うゆき乃を見る。
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