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スカイツリー天望回廊でのあの時。豊川は口を動かさず、声に出さず光流に話しかけた。
「この声は君だけにしか聞こえません」
「テレパシー的な? センセそんなことも出来たんですね」
光流は周りをチラリと見た。誰も気がついていないようだ。
「クロは高校生くらいの歳まで、この一晩で成長させます」
「だから独立させるって言ったんですか。クロのやつにいきなり一人暮らしなんて大丈夫なんですかね」
光流は腕の中でグッタリとしているクロを見た。
「クロなら大丈夫です。そして……あ、これは三井さんに内緒ですよ」
それから、豊川の声は楽しそうに光流に秘密の計画を打ち明けた。光流は黙ってふんふんと頷く。
「それって秘密にすることですか? そもそも、なんでゆき乃に内緒なんです?」
「それは、彼女の驚く顔が可愛いからです」
「は?」
子供のような発想の豊川に光流は唖然とするが、神とは純粋で子供のようなものなのかもしれないと納得した。
「表情豊かな三井さんの驚く顔が見たいんです。とても楽しみです」
「アイツの……そうですか、じゃあ内緒ってことで」
光流は心の中で豊川に親指を立てた。豊川は誰にも分からないよう唇だけで微笑んだ。
そして今、光流は浅草神社の社務所で美津や本田と笑い合うゆき乃を見る。
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