第百六段 「龍田河の紅葉」

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光流は、真剣な眼差しで薄笑いを浮かべる在原業平に近づく。その身体は、式神たちの祈りにより、オーロラを纏うように揺らめく光に包まれていた。 「力の弱まったお前たちなど私の相手ではないと言っている」 在原業平は手のひらに稲妻を呼ぶ。光流は走り出した。 「神通力は弱まってるかもしれないけど、こっちはどうだ!」 光流の行動を呆然と見つめる在原業平の頬に光流は拳をたたき込んだ。 次の瞬間、黒狩衣をなびかせ在原業平は地面に倒れ込んだ。祈りにより威力を増した拳は在原業平を確実に捕らえた。 「私が人間ごときに殴られるとは……一体なにを……」 仰向けで打たれた頬を押さえ、何が起きたのか分からないというように、視線を彷徨わせる。 「目を覚ませ本田! お前の身体だろ!?」 光流が再び殴りかかる勢いで黒狩衣の胸ぐらを掴むと、在原業平は緋色の瞳で睨むように光流を見上げた。 「……そなた、器を……旭の身体を心配していたのではなかったか」 「先祖の魂にバラバラに裂かれるより、まだ顔のアザの方がいいだろ?」 光流は笑みを浮かべた。 「こんな……野蛮な戦い方があるか!」 在原業平は、光流の腹を力いっぱい蹴りあげた。ドスッと鈍い音がひびく。 「うっ……」 腹を押さえ光流は数歩、後ずさり地面に尻もちをつく。それを見た在原業平は期待に瞳を輝かせる。 密かに集めた巨大な雷雲。在原業平の合図により、そこから光の矢のような稲妻が光流を狙った。
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