第百六段 「龍田河の紅葉」

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尻もちをつくその場所は、自らが作った海水のシェルターの外だ。 落雷の閃光により、夜空は昼間のように明るくなった。轟音と共にやってきた閃光の眩しさに光流は、思わず目を閉じてしまう。 「……ん?」 数秒がたち何も起こらないことに、おそるおそる目を開けると、目の前で稲荷神使姿のゆき乃が空に両手をかざしていた。 「ゆき乃?」 今度はふわりとした感覚を身体に感じ、振り返る。豊かな金の毛並みの尾が光流を守るように覆いかぶさっていた。柔らかな金色の毛が口に入る。 「ぶはっ! お美津? いつの間に変幻したんだ」 そして、何かの存在を感じ空を見上げると、そこには銀盤のような梵字の上に立つ豊川がいた。式神たちは皆、神通力を使い、主である光流を守っていた。強力な稲妻は、それぞれに落ちることで分散されたようだ。三人の式神は満足げに頷いた。 「お前ら、祈ってるんじゃなかったのかよ」 半分呆れながらも、式神たちの忠誠心に光流の胸が締めつけられる。 そのとき、光流の身体の前で黒い塊が地面に倒れた。長い金髪と黒の狩衣が地面に広がる。 「中将……本田か? 俺をかばったのか?……なんで……」 在原業平から身体を取り戻した本田は自らが放った雷のほとんどを浴びたようだ。そして、仰向けのまま言う。 「じいさんは俺の身体を乗っ取って粗末にするし、俺が気に入ってるスカイツリーを壊そうとした。俺は古臭い建物は嫌いだけど、最先端のものは好きなんだ」 青く輝くスカイツリーを本田は地面から仰ぎ見る。世界に誇るスカイツリーは本田の誇りでもあった。それから光流へと視線を移す。 「それにお前なんか邪魔なだけで、いなくなってもいいんだけど。俺、殺人犯になるのは嫌だし……俺も死にたくない。今、じいさんを倒すっていう目的はお前も俺も一緒だろ? 決着はその後にしねぇ?」 光流は呆然と本田を見つめた。 「お前、どこまで自分本意なんだよ」 「人生、欲張らなきゃつまらないじゃん。俺がじいさん抑えとくから何とかしてよ」 本田は悪びれもせず言った。それから眉を寄せる。 「うっ……身体が……」 本田の身体が大きく震えだした。
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