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ゆき乃は豊川が図書準備室で話した将門の呪いと、東京の結界崩壊について思い出した。
京都で打ち首になった平将門の首は江戸の街まで飛んだ。そして空中で分裂し、北斗七星の形に分かれて落下した。その場所には神社が建立され、それは江戸を呪う北斗七星となった。しかし、徳川家康は北斗七星の柄、すなわち平将門の首と胴体を分断するように調伏の神社を建立し、平将門の呪いをエネルギーに変えて江戸を繁栄させた。それが北斗九星だ。
そして明治政府は首と胴を切り離すように山手線の線路を敷き、鉄によりエネルギーを閉じ込め、内回り外回りの電車を絶えず走らせることでエネルギーを増幅させた。さらに人々の霊魂が眠る霊園を築いて北斗七星を囲みバラバラに分断した。
しかし、霊魂の結界を作る一つである築地本願寺の移動により結界は切れた。しばらくして戦争になり、その切れ目からB29がやってきて東京大空襲となり、東京は崩壊した。
さらに近年、スカイツリーが完成。皇居から見て裏鬼門の東京タワー、鬼門のスカイツリーをつなぐと結界が寸断される。
結界の崩壊は、すでに起き始めている。
「その、すでに崩壊中の結界のせいで、お前が現れたワケだろ?」
光流も深刻な顔で座り、本田に言った。しかし、本田は大きく手を振る。
「ちょ、待って! 俺の一連の事件は結界のせいじゃなくて、俺が現代東京に鳴らした警鐘であり、俺の意思だからね? 人を歯車の一部みたいに言わないでくれる?」
「そうか? 操り人形だったワケじゃないのか」
「バカにすんな! 俺がそんな薄っぺらいものに見える?」
(見える……)とゆき乃は心の中で即答した。
成長したクロのことや結界崩壊も衝撃的ではあるけれど、ゆき乃には豊川が消える前にスカイツリー天望回廊で皆にメッセージを残していたことが気にかかった。
(巻物の解読はともかく、クロちゃんの成長のことは私にも言ってくれて良かったのに)
ゆき乃が唇を尖らせたとき、美津がお茶を運んできた。
「美津さん、ナイスタイミング。藤原が絡むから俺、もうのどカラカラ」
本田は大げさな言い回しで手を伸ばす。
「あら本田さん、さっき帰るって言ってたから本田さんの分ないわ」
「うわー、脱水症状が……」
本田は両手で喉を抑え、転げまわる。
クロ以外の式神が集まった。光流はその様子を見つめながら豊川が声に出さず告げた言葉を思い出していた。
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