151人が本棚に入れています
本棚に追加
広間を徘徊していた明光が、前から三列目の席で足を止めた。明光にそっと肩を叩かれた見習いは、「そうしたつもりだったんですが」と唇を少し尖らせている。
「あら、では手が冷えているのかしら。
冷たい手だと固油は伸びにくいでしょう」
「はい、全く伸びないんです。
どうしよう……。
顔を洗ってやり直さなきゃ駄目ですか?」
「いいえ、その心配はないですよ。
手を擦り合わせて……」
最後まで聞き終わらぬうちから、見習いは掌を擦り合わせている。
「手が温かくなったら、それで顔を温めなさい。
固油は指先で塗るのではなく、掌全体で顔に馴染ませるのですよ」
都季は「へえ」と小さく呟き、真剣な顔で指南を聞いた。
明光の教えは分かりやすかった。
眉の形で顔の印象が変わることや、口紅は口角を美しくとらねば締まりのない顔に見えてしまうこと。
最初のコメントを投稿しよう!