第3話

33/35
151人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
固定の為、顔に手を乗せて眉を描く際は、手の汗などで白粉を剥がしてしまわぬよう、顔に触れる部分には布を巻いておくなど、明光は教壇に置いた“めくり”の図を見せながら細かく説明した。 *** 「お前には家母(かも)様の手伝いをしてもらいます」 塾を出ると、妙児は都季にそう言った。 家母という名は、雪美館の創始者である家長(かちょう)が娼家の女番頭に与えた号である。 その名には、娼家を切り盛りする母、という意味が込められていた。 娼家に着くと、妙児はそこの軒を潜った。 都季も、その後に続いた。 娼家は、戸口から上がって直ぐのところに金の勘定をする結界が張られている。そこを帳場(ちょうば)と呼んだ。 帳場を見ると、背を丸めた高齢の女性が座していた。 その女性こそが家母である。 「家母様、この娘が先ほど話した都季です」 妙児が結界の外で腰を降ろした。 「うん、もう連れてきたんか」 家母は目を細めて都季を見た。 年のせいか、家母は近ごろ目がぼけるのだ。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!