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茶芸の時か――。
都季は思った。
人という字の知否を訊かれた時だ。
妙児が何も訊いてくれなかった為、とうとう口には出せなかったが、あの時はもっと字を知っていると言いたくて仕方なかった。
「はよ答えんかいね。
どうじゃ。字が読めるんか」
家母は帳場の机をしきりと叩いた。
その背には、小さな札がびっしりと掛けられている。娼妓の名札である。
名札が、かたかたと揺れた。
「少し……、読めます」
都季は肩を竦めた。
あまり読めない。
少し読める。
どちらも同じ意味に思えるが、後者の方が断然聞こえがよい。
「ふん」
家母は面白くなさそうに鼻を鳴らした。
4話へつづく――
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