第五夜・三日月

2/2
前へ
/12ページ
次へ
 寂れた街に冷たい北風が吹いていました。今日もご飯にありつけなかった野良犬が、軒下をとぼとぼと歩いています。どこの家の屋根にも雪が重たく積もり、大きな氷柱が月明かりに照らされてらてらと光っていました。  野良犬はいまにご飯にありつけるに違いないと、鼻をヒクヒクさせていました。それこそ、小さな米粒ひとつでも見逃すわけにはいかないとばかりに足元ばかり見て歩いていました。みしみしと鈍い音をたてて氷柱が揺れたのにも気がつきませんでした。氷柱は屋根から手を離して、さも当然のことのように犬の背中へ突き刺さりました。犬はびっくりしてギャンと吠えましたが、氷柱は居心地良さそうにしているだけです。暴れ回るうちに臟はこぼれ、血は凍りつき、やがて力尽き動かなくなりました。その犬の死骸は、どこからかやってきた別の野良犬が綺麗に胃袋に片付けました。  今夜のお話はこれでおしまいです。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加