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 あれは拓己と同じクラスだった、中学二年の時だ。  毎年、晩秋に行われる校内を上げてのクラス対抗合唱コンクールで、あろうことかわたしが伴奏のピアノを弾くことになった。  元々あまりピアノが好きではなかったその腕前はお世辞にも素晴らしいとは言えないものだったが、  他にピアノを現役で習っているクラスメイトがいなかったため、選択の余地がなかったのだ。  みんなに迷惑はかけられないと、わたしは毎日遅くまで練習した。  他のクラスのピアノより明らかに仕上がりが遅いことを自覚していた分、必死だった。  そして、─その結果、わたしの手首は腱鞘炎を起こした。  医師から一週間安静にするよう指示を受け、その間、クラス練習の際は音楽の先生が代行で弾いてくれていた。 「どうせならもうこのまま、本番も先生にピアノ弾いてもらった方が良くない?」  ある日の放課後、教室に忘れ物を取りに戻ったわたしの耳に、そんな言葉が飛び込んで来た。
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