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「ああ、……なるほど、そういうことね。
二ノ宮拓己、なぜか亜優ちゃんだけには優しいもんねぇ」
「うるっさい。ほっとけ」
ガタン、と椅子を蹴るような音が響き、わたしはびくっと肩を揺らした。
「とにかく、むかつくの。
普段は目立たないくせに、たまたまピアノ習ってたからっておいしいとこ持っていくとか、腹立つんだよね」
「おいしいとこって……」
「おいしいじゃん、伴奏なんて。
そのくせ、練習してるアピールだかなんだか知らないけど、大して痛くもないのにわざとらしく包帯なんか巻いちゃってさ。
悲劇のヒロインぶってんじゃねーよ、って感じ」
「こわっ。……美帆の嫉妬、こわっ」
「うわあ近寄らんとこ」
きゃはは、という笑い声が鼓膜に痛いほど響き、わたしはぐっと唇を噛んだ。
右手首の包帯を隠すように白いカーディガンの袖を引っ張る。
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