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「な、……何それ。
分からないわけないじゃん、同じクラスなのに」
「へえ。同じクラスなんだ。
知らなかった。俺、興味がない奴の顔、まったく覚えられないからさ」
「……」
「俺もこう見えて小心者だから、名前も知らない奴とはカラオケ行けねーわ。
悪いけど」
「……ちょっ……」
スタスタスタ、とこちらに足音が近づいてくる。
目を真ん丸に見開いたまま、教室から出て来た拓己を直立の姿勢で迎えると、いきなり手首を掴まれた。
「帰るぞ」
声を発する間もなく、強引に手を引かれるまま後に続く。
すれ違った隣のクラスの男子が発したヒュー、という冷やかし声がずっと後ろから聞こえた。
「た、……拓己」
角を曲がり、真っ直ぐな白い廊下をひたすら進む。
「亜優」
歩くスピードを緩めずに、拓己は言った。
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